「負けヒロインが多すぎる!」1巻感想

こんにちは! 発売前からガガガ賞受賞、強烈なタイトル、いみぎむる先生の可愛いイラスト、毎日投稿のSS...と話題に尽きなかったマケインですが、ようやく発売ということでさっそく読んでみました。 以下ネタバレ有りの感想なので、読んでない方はぜひ先に読んでみてください! www.shogakukan.co.jp


「負けヒロインが多すぎる」って言ってもまあ、一巻に一人ずつぐらいな感じで進んでいくんでしょう?って思ってたんですがそんな生易しいものではなかったですね。

まず冒頭の八奈見の負けシーン 「好きな相手が好きな相手の所に行くのを送りだす負けヒロイン」。詳しくはネタバレになるので濁しますが「弱キャラ友崎くん」7巻の演劇のシーンの後図書館に送り出すシーンとか、ちょっと違うけど「凪のあすから」25話の美海とか色々思い出しました。

そういうシーンって普通の物語では盛り上がりも盛り上がりでめちゃくちゃシリアスなシーンだと思うんですが。本作はその後を裏側から覗いてしまったというか、潔い負けの後の全然潔くない「人間らしさ」みたいなものを垣間見てしまって、そして垣間見てしまったことを見られてしまうことから始まります。温水と一緒に、読者のつもりで一部始終を眺めていたら、うっかりこちらを見られてしまって引きずりこまれてしまったようなそんな感覚に――

負けヒロインを覗く時、負けヒロインもまたあなたを覗いているのだ

一度見られてしまえば、その後は「残念感」がどんどんあふれ出してきます。この残念感がまたとっても良い。 やけ食いをすればお金が足りなかったり、やたらと食い意地をはっていたり、あんまり料理が上手くなかったり、延々と愚痴をきかされたり... 以前雨森たきび先生の「ブラック企業に勤める社畜さんが空き地でダンゴムシとか拾ってる女の子にあいさつしたら、気が付けば幸せになっていた話」を読んだときにも思ったのですが、先生の書く女の子のちょっと (いや大分...?) 残念な一面は、どうしたって憎めない感じというか魅力的に思えてしまってとても好きでした。

2人目のマケインは陸上部短距離のエース焼塩檸檬

「だから違いますよ。俺、彼女いますし。」

これもまた見事な負けっぷり...。自分の方を向いてすらいない...完膚なきまでの負けでした。 その後、光希が普通に檸檬に話しかけているところとか...いたたまれない。 とはいえ、他のマケインとは違ってまだ想いを伝えられてはいない檸檬。今後アタックする展開とかもあったりするのかな?

そして、3人目のマケインは文芸部の小鞠知花。 文芸部の合宿で海水浴をしたり、意中の相手である玉木部長に小説のアドバイスをもらったり..、そして決定打は花火の最中ケガをしそうになったのを助けてもらって...

「す、好き、です!」

普段はずっとおどおどしていて、会話をするのにもスマホで文字を打ち込むようなそんな子が、自分の言葉でまっすぐ相手への想いを伝えていくこのシーンはとっても熱かったですね。 でもどんなに熱くても負けるのが負けヒロインで...。「告白したつもりが勘違いで拗れてたけど、ずっとお互い好きだった」というベタもベタなすれ違いカップルの前に敢え無く完敗。 というわけで、一巻で登場ヒロインがほとんど負けました...まさに負けヒロインが多すぎる

さてそんなこんなで発生した大量の負けヒロインに絡まれることになった主人公の温水和彦ですが、絡まれたり、一緒にお弁当を食べたり、部活動を一緒にしたりしながらもどこか少し引いて傍観者のポジションに近いところに居た気がします。それでも状況は少しずつ変わっていきます。

俺にも逃げられないときが来るのだろう。なにより目の前の部員たちの関係性の中に、俺も既に含まれている。

その時は最終節でさっそく訪れます。ここが一巻で一番面白かった。正直ここまでは (面白かったけど) あらすじとかSSで予測できる範囲の内容だったので穏やかに読んでいたのですが、最終節は本当にそれどころではなかったです。

八奈見と二人でお弁当を食べているところを誰かに見られてしまったことから、「八奈見が新しい男に乗り換えた」という噂が広まってしまいます。 それを耳にした温水はその日のお弁当に、借金金額分の値段を付けて八奈見との関係を終わらせてしまう。 そんな折、八奈見と温水の噂を聞きつけた袴田は、温水に八奈見を託そうと話します。 良く知りもしない温水に、自分の振った相手を「よろしく頼むな!」とか悪意もなく言ってしまう、そんな袴田に強い違和感を覚えた温水はその思いを袴田にぶつけます。

「だけどさ、八奈見さんの気持ちを勝手に決めちゃったらさ!彼女がお前のことを好きだったこととか、その気持ちがどっかいっちゃうだろ!」

振られた場面をうっかり見てしまって、ちょっと迷惑そうに愚痴に付き合って――そうやって積み重ねてきた時間は温水自身を確かに変えていたはずで。

それでも俺は、八奈見の涙も強がりも――すぐ側で見てきた。

はじめは、傍観者だった温水はすっかり主人公になってしまったなあと感慨深かったです。

とはいえ、そこは温水くん、染みついたボッチ根性は健在のようで。 告白するみたいな空気を出して二人きりになった八奈見に対してようやくようやく友達申請を行います。

通り雨に翼を休める鳥みたいなもので、晴れ間に飛び立って行くのだろう。

今後、マケイン達にとって温水の存在が一時の拠り所として終わるのか、それとももっと深い関係に変化していくのか。 今後がとっても楽しみな一巻でした。